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無線操作式クレーンの安全運転について
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1. はじめに
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 クレーンの運転には機上の運転室から操作卓により操作するもの,床上でクレーンの巻上機構部から下がっているペンダントスイッチの押ボタンにより操作するもののほかに,運転者が保持する操作装置により無線で遠隔操作するもの(以下「無線操作式クレーン」という。)がある。無線操作式クレーンは,運転者が玉掛け作業を兼務しながら,最も安全な場所で運転したり,作業環境に衛生上問題があるような作業場では,環境のよい場所から運転できる等,作業の省力化,効率化,安全化に貢献している。
 近年,無線操作装置のデジタル化・小型化・軽量化が進み,ハンディタイプの安価な製品も各社から販売されるようになり,あらゆる産業分野で積極的に導入されるようになった反面,無線操作式クレーンの災害事故も増加している。
 平成20年から22年の3年間の無線操作式クレーンの死亡災害事故は8件発生している。災害の発生原因のほとんどが,どこからでもクレーン操作が可能となるため,周辺の安全確認が疎かにになり,つり荷に近づき過ぎて危険を回避できなくなったことによるはさまれ事故である。
今回は2004年に日本クレーン協会が制定した「無線操作式クレーンの安全に関する指針」(JCAS1002-2004)の内容を中心に,安全,運転,保守について基本的な遵守事項と,より安全を確保するための推奨事項を記載する。


2. 無線操作式クレーンの運転のしくみ
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 無線操作式クレーンの運転の「情報の流れ」は次のようになる。
@  運転士が操作装置のスイッチを操作し「走行・横行・巻」などの運転指令をクレーンに伝える。
A  クレーンが運転指定に応じた動きをしているか,運転士が目視で確認する。
B  運転士はクレーンの動きに応じて次の運転指令をクレーンに伝える。
 これは運転士とクレーンの間で情報交換のループが必要であることを意味する。この情報交換の方法として運転士からクレーンへの伝達手段には無線電波を使用し,クレーンから運転士へは運転士の目視を使用する。したがって,無線操作式クレーンを運転するときは運転士がクレーンやつり荷の動きを常に目で確認して情報交換のループが切れないように運転することが重要である。間違っても脇見運転や荷の動きが確認できないような状況では絶対運転をしてはならない。


3. 導入時の注意事項
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(1) 無線操作式に適さないクレーン
  @  停止することが危険につながるクレーン
 外部から同一周波数使用の無線機器が持ち込まれたり,クレーン近辺で高周波溶接機等を使ったりして,無線操作式クレーンの電波が妨害を受けると安全のためクレーンを停止する。レードルクレーンのように,クレーンが止まる事で危険な状態が発生するようなクレーンには無線操作式は適用できない。
  A  稼働率の高いクレーン
 無線操作式クレーンの横行速度及び走行速度は, JCAS1002-2004指針で0.66m/s以下と推奨されており,機上運転に比べるとかなり遅くなる。従って機上運転のような高稼働率を実現することは難しい。
 
(2) 無線操作式クレーンの運転資格
 無線操作式クレーンの運転には,機上運転のクレーンと同じ運転資格が必要である。
  @  つり上げ荷重が5トン以上のクレーン
 クレーン・デリック運転士免許(限定なし),またはクレーン・デリック運転士免許[クレーン限定]を有する者。特に5トン以上の床上運転式や床上操作式のクレーンを無線化した場合は,クレーン・デリック運転士免許[床上運転式クレーン限定]や床上操作式クレーン運転技能講習修了者では運転ができなくなる。
  A  つり上げ荷重が5トン未満のクレーン
 前記@の有資格者,または「クレーン運転の業務の特別教育」を修了した者。
 
(3) 玉掛けの業務の資格
 無線操作式クレーンではクレーンの運転のほかに玉掛け作業を併せて行うことが多く,したがって玉掛け作業を行うには次の資格を有する者でなければならない。
  @  つり上げ荷重が1トン以上のクレーン玉掛技能講習を修了した者。
  A つり上げ荷重が1トン未満のクレーン玉掛けの業務の特別教育を修了した者。
 
(4) 無線に関する資格
 無線操作式クレーンに使われている無線装置は電波法第4条の免許を要しない無線局の微弱無線局または特定小電力無線局の電波を使用している。
 これらの無線局の使用には性能証明や技術基準適合証明が必要であるが,無線装置の製造メーカが取得しているので,無線操作式クレーンの運転者は無線に関する資格は一切必要としない。ただし,無線装置を改造して使用すると法律により罰せられるので,絶対に改造してはいけない。
 
(5) 無線周波数の管理
  @  事業場別に無線周波数を管理し,同一周波数使用による混信を防止する。また,周辺地域の無線周波数の使用状態にも配慮する。
  A  外部から同一周波数使用の無線機器が持ち込まれないよう管理する。
 
(6) 取扱い責任者の選任と任務
 無線操作式クレーンの運転の業務について必要な資格を有する者の中から,無線操作式クレーンごとに取扱い責任者を選任し,その者の氏名等を見やすい箇所に表示するとともに,その者に次の事項を行わせる。
  @  機器の管理及び操作装置の電源スイッチがキースイッチの場合は,キーの保管,管理をすること。
  A  予備の操作装置を備えている場合は,電池を抜き取り,電源スイッチを「オフ」にしておくこと。電源スイッチがキースイッチの場合は,キーを抜き取っておくこと。
  B  非常用予備電池がある場合は,良好な充電状態を保つこと。
  C  チェックリスト等により作業開始前点検の実施を確認すること。
  D  異常等の報告を受けた場合は,直ちに,使用禁止,補修その他の必要な措置を講じること。


4. 運転
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(1) 作業開始前の措置
  @  無線操作式クレーンが複数台ある場合は,操作装置とクレーンの対応が正しいかを確認すること。
  A  操作者の腰に固定する操作装置を使用する場合は,誤操作を防止するため,腰および肩ベルトは確実に着用すること。
  B  操作装置の各スイッチに損傷が無いこと。
  C  電池が充電されていること。
  D  停止機能が確実に作動すること。
  E  各スイッチの動作表示,作動方向表示が明確であること。
  F  各スイッチの動きが円滑で,相反する動作のスイッチ間のインターロック動作に異常が無いこと。
  G  クレーンが各スイッチの表示どおり作動し,動作タイミングに異常が無いこと。
  H  点検又は補修中でないことを確認すること。
 
(2) 運転時の留意事項
  @  クレーン操作を行わないときは,操作装置の電源は「オフ」にしておくこと。電源スイッチがキースイッチの場合は,キーを抜き取っておくこと。
  A  つり荷がよく見える位置で運転し,周囲の安全を確認すること。
  B  運転するときは,足元の安全を確保すると共に安全な通路を通行すること。
  C  操作装置の表示とクレーンの作動方向の表示とを常に確認して運転すること。
  D  安全通路,車両通路を横断するときは,徐行すると共に警報を鳴らす等により周囲に注意をうながすこと。
  E  走行・横行ストッパに当てて止めるような運転をしないこと。
  F  一人の運転者が2台以上の操作装置を同時に操作しないこと。
  G  操作は,3動作以上を同時に行わないこと。
  H  クレーンの作動中は直接つり荷及び玉掛用具に触れないこと。
  I  クレーン等安全規則第29条で禁止された場合以外であっても,原則としてつり荷の下及び荷の転倒の恐れがある範囲には立ち入らないこと。また,作業者を立ち入らせないこと。
  J  つり荷の反転作業を行なう場合,運転者や玉掛け作業者等のいる方向には反転しないこと。
  K  リフチングマグネット又は真空吸着機を用いて作業を行う場合,つり荷の高さはできる限り低くして運搬すること。
  L  運転者は,荷をつったままで身体から操作装置を離してはならない。また,操作装置の制御範囲から外れてもいけない。
 
(3) 作業終了時の措置
  @  クレーンは,定められた位置に停止させること。
  A  玉掛け用具は取り外し,フック等のつり具は2m以上の高さに巻上げておくこと。
  B  操作装置の電源は「オフ」にしておく。電源スイッチがキースイッチの場合は,キーを抜き取り,取り扱い責任者に返却すること。
  C  操作装置の電池は必要に応じて充電や電池交換を行うこと。
  D  操作装置は塵埃,油などをきれいに清掃し,所定の場所に保管すること。
  E  運転中に気がかりになったことがあれば,取扱い責任者に報告すること。
    
 
(4) 異常時の措置
  @  運転中に停電したときは,操作装置の電源及びクレーン側の主電源を切り,周囲の安全を確保し,通電を待つこと。
  A  運転中に無線装置の異常またはクレーンの異常を認めたときは,直ちに作業を停止し,操作装置の電源及びクレーン側の主電源を切り,取扱い責任者に報告し,指示を受けること。


5. 保守
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(1) 定期自主検査
  定期自主検査は,「天井クレーンの定期自主検査指針」及び「ホイスト式クレーンの定期自主検査実施要領」により行うこと。なお,これ等に含まれないものについては,指針に準じ,又は製造者のメンテナンスマニュアル等によること。
 
(2) 検査及び保修時の留意事項
  @  検査及び保修等を行うときは,それぞれ「検査責任者」,「保修責任者」を選任し,関係者と手順及び内容等について十分な打合せを実施させること。
  A  検査及び保修等を行うときは,原則として電源開閉器をしゃ断し,当該開閉器に検査中である旨の表示をする等の措置を講じること。
 また,電源開閉器が地上にある場合には施錠等の措置を講じることが望ましい。
  B  操作装置を用いて検査及び保修等を行うときは,検査及び保修等に従事する者以外の者により操作されないように,検査及び保修等に従事する者が携帯するか,又は手元に置いて行うこと。
  C   検査及び保修等を行うときは,その旨をクレーンガーダ等に表示し,周知させること。
また,必要に応じ,監視人をおく等により,クレーン下への立入禁止措置を講じること。
 
(3) 受信装置リレーの定期交換
 受信装置の出力リレーは消耗品であり,寿命がある。寿命は接続する負荷(電磁開閉器等)により変化するが,1年から3年程度の寿命のリレーが使用されている。また,寿命の過ぎたリレーをそのまま使用し続けると,接点溶着を起こしクレーンが暴走する危険があるので,無線操作装置の取扱説明書に従い,必ず定期的にリレーを交換する必要がある。このことはクレーン定期メンテナンスのチェック項目に組み入れる必要がある。更にリレー以外でも操作装置のスイッチ類等については,製造者が推奨する交換基準を目安にした定期交換も重要であることを最後に付け加えておきたい。


6. おわりに
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 6〜7年前は無線操作式クレーンでの死亡災害発生原因のほとんどが,無資格での玉掛不具合によるつり荷の落下によるものであったが,ここ数年は操作場所の不具合による挟まれ事故に変化している。無線操作式クレーンはつり荷から充分離れた安全な場所から操作できるにも係わらず,つり荷に近づき過ぎたり,周辺の安全確認を疎かにして被災している。
 無線操作式クレーンは手軽で便利な反面,ちょっとした不注意が災害につながる可能性が高い機器である。
 無線操作式クレーンによる災害撲滅のために,今回掲載した「無線操作式クレーンの安全運転について」が読者の皆様のお役に立てれば幸いです。

(金陵電機(株)四元清文)


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