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クレーン製造段階に於けるリスクアセスメント―ホイスト,クラブ式天井クレーン―
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1.はじめに
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  クレーンは,“危険な作業を必要とする機械”として,労働安全衛生法により特定機械(定置式クレーンは吊上荷重が3 t以上,スタッカー式は1t以上)に指定されており,製造の許可や検査証の交付,各種検査についても規制されている。
  設計段階に於いても安全規則及び構造規格,JIS規格等の基準が細かく規制がされており,規則・規格を根拠として,製作・維持・管理し,安全を確保するように義務付けられている。
 現在では,労働安全衛生法改定により一層のリスクアセスメントの実施が義務づけられた。
特に重要な事は,設計段階のリスクアセスメントによる本質安全化の追求であり,機械の包括的な安全基準に関する指針(以下,包括安全指針)に沿った検討である。
 以下,各規制と包括安全指針について実践する上でのポイントを解説する。

 


2.機械の包括的な安全基準に関する指針について
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 全ての機械に於いて包括的な安全対策に関する基準として,平成13年6月に「機械の包括的な安全基準に関する指針」が基発第501号にて出され,その後,労働安全衛生法が改正され,危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)及び,その結果に基づく処置の実施が事業者の努力義務とされ,平成19年7月にこの指針が改正された。
従来から労働安全衛生法第3条第2項に「機械,器具その他の設備を設計し製造し,若しくは輸入する者〜中略〜機械が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するよう務めなければならない」と記され,また,法第28条の2に事業者は,「リスクアセスメント及びその結果に基づく措置の実施に努めること」が定められて,この包括安全指針に基づく措置の実施が求められている。【図1】
 

 よって設計段階でリスクアセスメントを行い,機械の危険性又は有害性を特定,リスクを見積り,それに応じた保護方策を実施し,適切なリスク低減の実施が必要で,この際,機械の本来の使い方だけではなく,予見可能な”誤使用””トラブル処理”時などでのリスクも考慮する必要があり,リスクアセスメントの結果に基づき,その保護方策も実施することを強く求められている。
機械の本質的な安全化を進める上で,設計・製造段階での機械の安全化を図ることは,根本的対策として最も効果的で,機械を操作する者に頼らない本質的な安全方策を優先して実施することが重要であるとされている。【図2】


  上記の設備対策を講じた後,存在する残留リスクについては残留リスクの内容と,その対処法についての「必要な情報」=「使用上の情報」として使用者側に共有認識としての提供が必要である。
リスクアセスメントは,安全方策の実施により,機械のリスクが許容可能な程度まで低減されているかを判断するもので,行われた安全方策によっては,使用者が,これらを取り外して使用する事も考えられる。
よって機能や使い易さを損なっていないかについても判断する事が望ましいとされる。リスクアセスメントと安全方策の手順について【図3】を参照頂きたい。


 


3.クレーン製造段階におけるリスクアセスメント
   
 

 クレーンの製造段階において計画,設計する上で,頻度・仕様(各運動速度及び制御等)を考慮し,ホイスト式又はクラブ式に大別される。
ホイスト式は,使用される状況の特定・選定する中で,クラブ式に比べコストが安く製作出来る事から,安易にホイスト式にするケースが多く,実際は当初の設計条件と異なる使用状況(過頻度)による部品の摩耗が早いケースや,ワイヤロープの破断による吊り荷の落下等の重大事故がたびたび報告されている。
  また,昨今,経年による老朽クレーンに対し亀裂等が発生して,重大災害も懸念される。
  このような事から,設計段階に於いて,使用者側が安全に使用する上で,製造根拠=「設計に於ける規格」「安全規則」の過去からの規格の変移・考え方を理解することは重要であり,使用者側は製造者側に明確な使用頻度,仕様等を選択し伝える事等「使用状況の特定」が,リスクアセスメントを実施する上で基本となる事項である。
  以上の事から過去からのクレーン製造における規格のポイントを記述します。

 


4.クレーン設計に於ける規格の経緯
   
 

 S47年10月より今までの労働基準法から労働安全衛生法に改正となり施行令の省令としてクレーン等安全規則及びクレーン構造規格となった。以下のような改正追加がなされている。

4.1クレーン等各構造規格の経緯

    S37年10月31日(労働省告示第53号)
一部改正   S46年10月21日(労働省告示第54号)
全面改正   S51年8月5日(労働省告示第80号)
全面改正   H 7年12月26日(労働省告示第134号)
一部改正   H15年12月19日(厚生労働省告示第399号)

4.2クレーン等安全規則の経緯

S47年9月30日(労働省令34号)
S49年5月21日(労働省令19号)
S50年3月22日(労働省令5号)
S51年12月15日(労働省令43号)
S53年9月29日(労働省令35号)
S53年12月8日(労働省令45号)

H13年7月16日(厚生労働省令第171号)
H15年12月19日(厚生労働省令第175号)
H18年1月5日(厚生労働省令第1号)

 


5.クレーン構造規格のポイント
   
 

 クレーンの設計計算に於ける係数(安全係数:作業・衝撃)使用頻度に対する考慮を,構造規格の経緯に合わせ考え方を示す。

5.1 S37年10月31日(労働省告示53号)
   〜S46年10月21日(労働省告示54号)〜

 この告示「構造規格」の構造部分は,当該クレーンの使用に「支障となる変形等が生じないように剛性が保持されているものでなければならない」(14条)と記載され,寿命に対する想定は無く,クレーンの種類によって計算における「割り増し係数」(構造体に対する安全率)を加味する事となっていた。【表1】参照
  また,巻上装置に関しての規格である,ドラム,シーブにおける大きさ(D/d:ロープとの直径比)では20倍以上,エコライザー(釣合車)は10倍以上と決められている。

 

表1 昭和46年割増し係数

・静荷重係数φ

旋回速度又は走行速度m/min
係数φ
0
1
レール継ぎ目なし
90≦
1.2
90>
1.1
レール継ぎ目あり
60≦
1.2
60>
1.1

・動荷重係数Ψ

機 種
係数Ψ
1
一般用
かぎクレーン
小荷重
小型巻上機
1.2〜1.4
2
手動クレーン
1.2
3
中小荷重(15t以下)
天井クレーン
1.4
4
橋形クレーン
5
壁クレーン
6
塔型ジブクレーン
7
ジブクレーン
8
大荷重
天井クレーン
1.2〜1.6
9
橋形クレーン
1.2〜1.4
10
ジブクレーン
1.2〜1.4
11
クラブ付
クレーン
ヤード
天井クレーン
1.6
12
橋形クレーン
13
ジブクレーン
14
本船場
橋形クレーン
1.6〜1.9
15
ジブクレーン
16
製鉄製鋼
用クレーン
高炉巻上機
1.6〜1.9
17
装入クレーン
18
鋼塊クレーン
19
鋳なべクレーン
1.4〜1.9
20
鋳入クレーン
21
原料クレーン
22
鋼片クレーン
23
鍛造クレーン
24
焼入クレーン
1.6〜1.9
25
特殊クレーン
その他
浮クレーン
1.2〜1.4
26
修理用クレーン
1.2〜1.4
27
組立クレーン
28
コンクリート
打用
ケーブルクレーン
1.4〜1.6
29
高速ジブクレーン
1.6
30
1.2

 

5.2 S51年8月5日(労働省告示第60号)全面改正

 全面改正された規格に於いて「第12条剛性の保持」に構造部分は,壁面座屈(板で構成される構造部分の局部座屈),著しい変形等が生じないよう剛性が保持されているものでなければならないと記され鋼構造部分の耐用年数は20年(ISO,FEMの考え方:1984年クレーン誌第22巻11号に記載)と想定し,この間にクレーンが定格荷重に対しての荷重率で,荷重を受ける回数を想定する。
  頻度に応じT群〜W群に分類し,クレーン鋼構造部分がその寿命の間に受ける荷重の大きさ,その変化及び衝撃を考慮して「衝撃係数」「作業係数」を乗じて割り増し,あたかもこの大きさの荷重が加わったものとして取り扱うとされた。
  「衝撃係数」とは,巻上荷重を割増す係数で,荷重を地切りする場合等に大きな衝撃荷重が加わる事とし,この衝撃の割増しをするものとされた。
  「作業係数」とは,巻上荷重,自重,水平荷重を割増す係数で,クレーンの作業条件及び重要性を考慮して割増を行う。【表2】
  また,巻上装置に対する計算基準(ロープとの直径比:D/d,安全率)も,この分類において加味されている。
  これらの事から改正前に比べ,より設計基準が具体化され,寿命の考え方が反映されてきた。
  ここでのクレーン群に於いてクラブ式は任意のT〜W群の頻度に応じて設計されており,ホイスト標準品に関してはU群にて設計されている。

 

5.3 H7年12月26日(労働省告示第 134)全面改正
   〜新構造規格についての主な変更点〜

 主要海外規格(ISO,FEM)との整合性確保のため,(昭和51年8月5日告示第80号を廃止)労働安全衛生法第37条第2項及び第42条の規定に基づきクレーン構造規格が平成7年12月26日(労働省告示第134号)に新たに制定,平成8年2月1日適用となった。以下,構造計算に於ける旧規格との主な相違点(クレーン構造規格関係)を示す。

(1) 構造部分に,使用できる鋼材を追加するとともに,外国規格等に適合する鋼材であって同等以上の化学成分及び機械的性質を有する鋼材は使用できることとし,それに伴う所要の整備を行った。
(第1条,第3条,第4条関係)
(2) 国際単位系との整合性を図るため,力の単位を「ニュートン」とし,それに伴う所要の整備を行った。
(第2条,第3条,第5条,第9条,第17条,第41条関係)
(3) 建築基準法令との整合性を図るため,木材の許容応力の見直しを行った。(第5条関係)
(4) 労働省労働基準局長が認めた場合には,風荷重及び地震荷重を他の方法により求めることができることとした。
(第9条及び第10条関係)
(5) ISO規格等との整合化を図るために,衝撃係数(巻上速度にて計算)作業係数【表5】,吊り上げ装置等(巻上等級)【表3】のドラム等のピッチ円の直径と当該ドラムに巻き込まれるワイヤロープの直径との比の値(以下「D/d」という。)及びワイヤロープの安全率を見直した。
(第11条,第20条,第54条関係)
(6) 構造部材又は溶接部分の破損の発生に鑑み,疲労の考慮を新たに規定したものである。(第12条関係)
(7) 天井クレーンのたわみの限度について適用を除外する規定を設けた。(第14条関係)
(8) 走行ブレーキを必要とする走行クレーンを見直すとともに,横行ブレーキを必要とするクレーンについて新たに規定した。(第18条及び第19条関係)
(9) 人力で走行するクレーンに対する規制を緩和した。
(第30条及び第40条関係)
(10) 外れ止め装置に適用を除外する規定を設けた。
(第32条関係)
(11) 床上で運転しクレーンの移動とともに運転者が移動する方式のクレーンについて,走行及び横行速度の制限を設けた。
(第33条関係)
(12) 停電によりクレーンが停止した際に,復旧通電時に不意にクレーンが動き出す事による危険を防止する為の規定を追加。(第34条関係)
(13) コントローラに係る規定を整備した。(第35条及び第36条関係)
(14) トロリー線の感電防止し措置をクレーン本体側でも行えることとした。(第37条関係)
(15) 緩衝装置をトロリー等移動する部分に設けることができることとした。(第39条関係)
(16) 運転室等のつりチェーンについて追加して規定した。(第49条)
(17) 吊りチェーンをリンクチェーンとローラチェーンに分け,その使用基準を定めた。(第55条関係)
(18) 以下クレーン等安全規則に稼動状況に於ける条文があり,使用に際しては,「当初の設計された使用条件を留意しなければならない」と記されている。

 

 第17条の2(安全規則)
 (設計の基準とされる負荷条件)
事業者はクレーンを使用する時,当該クレーンの構造部分を構成する鋼材等の変形,折損等を防止する為,当該クレーンの設計の基準とされた荷重を受ける回数及び状態として吊る荷の重さ(以下「負荷条件」という。)に留意するものとする。


〜上記第17条の2の解説〜

 構造部分を構成する鋼材等が交番荷重を受ける場合には,鋼材等が疲労破壊を起こすおそれがあるので,クレーンの製造に当っては,負荷条件を基準として設計されている。
  本条は,使用時における鋼材等の疲労破壊を防止するため,設計の基準とされた負荷条件を超える負荷条件で,クレーンを使用しないよう留意することについて規定されたものである。尚,クレーンの使用条件を考慮した適正な設計を確保する事から,クレーンを設置する事業所は,クレーンの製造又は構造部分の変更を発注をする時は,製造者に対し,負荷条件を明示且つ,設計の基準とされた条件も確認するよう努める。
  〔鋼材等〕の〔等〕は,クレーンの構造部分を構成する鋼材の接合部(溶接部,リベット部)が含まれる。
  〔荷重を受ける回数〕とは,予想されるクレーンの耐用期間中の回数をいうものであり,具体的には【表5】の荷重を受ける回数をいうものである。
  〔常態としてつる荷の重さ〕とは,常態として〕及びドラム,シーブの屈曲径の大きさ(D/d)即ち疲労破断によるリスクを下げるためで,ホイスト標準品に付いて言えば,巻上等級はD級に対応している。
  疲労破断は,ロープの安全率と D/dの関係から,構造規格に於いては,つり上げ装置等のドラム及びシーブのピッチ円の直径比の値はロープの種類に応じた(D/d)Sにて,ロープの安全率(第54条第1項第1号の表での値を越えるもの)を加味した計算(但し巻上等級がAに該当する場合は決められた値以上とする)において決定可能である。

 巻上等級は巻上装置に対する規定であり,荷重率及び使用時間で規定されている。
  例えば巻上頻度は低いが巻上揚程が長い物や,巻上速度が遅とは,定格荷重に対して実際に吊られる荷の重さをいうものであり,具体的には【表5】の区分をいうものである。


5.3.1構造規格に於ける巻上等級(第20条ドラム等の直径比)

 ワイヤロープにより荷の吊り上げ,走行,トロリーの横行等,作動装置(以下「つり上げ装置」と言う)のドラムのピッチ,円の直径と,当該ドラムに巻込まれるワイヤロープ直径との比の値,吊り上げ装置等のシーブのピッチ円の直径と,当該シーブを通るワイヤロープ直径との比の値,又は吊り上げ装置等のエコライザーシーブのピッチ円の直径と,当該エコライザーを通るワイヤロープの直径との比の値は,次の表に……と記されている。【表4】は一般的に使用されるロープ【1グループのワイヤロープ】の構造規格での(D/d)Sである。
  巻上等級について要訳すると規定されているのは,巻上装置の使用頻度(荷重率,使用時間)で分類された等級でのワイヤロープの破断に対する安全率,い物はロープの屈曲使用時間が長くなり,等級が上がる傾向に有る。
  構造体に対する疲労に関してのリスク規定は,作業,衝撃係数による割増係数であり,荷重率と使用回数(地切り回数:荷を上げる回数)で決定する。
  クレーンの使用頻度(グレード)は,巻上等級及び作業における頻度(作業係数)で,使用状況の特定をするべきである。

 

 

5.3.2使用頻度に於ける構造部分に対する考慮

 クレーンに於ける構造部分での強度計算では,
【T】使用頻度による「作業係数」
【U】巻速による「衝撃係数」
【V】荷重の組合せ等による「割増係数(安全率)」
  これら【T】【U】【V】を,考慮して計算する。


クレーンが荷重を受ける割合と荷重を受ける回数に応じて荷重を割増しする為の係数【表5】


5.3.2.3【V】荷重の組合せ等による「割増係数」

 構造規格に於いて破損による落下等,重大災害に.がる主要構造部分に関して,強度的疲労などは,考慮規定されており,各々クレーンの使用状況に応じ,組合せの荷重に対して補正係数(割増係数)を加味し,使用材料に於ける強度での許容応力が決められている。

V -1衝撃係数を乗じた垂直動荷重,作業係数を乗じた垂直静荷重,同じく作業係数を乗じた水平動荷重,並びに熱荷重の組合せ
V -2衝撃係数及び作業係数を乗じた垂直動荷重,作業係数を乗じた垂直静荷重,同じく作業係数を乗じた水平動荷重,熱荷重並びに,クレーンの作動時における風荷重の組合せ
V -3垂直動荷重,垂直静荷重,熱荷重及び地震荷重の組合せ
V -4垂直動荷重,垂直静荷重,熱荷重及び衝突荷重の組合せ
V -5垂直静荷重,熱荷重及びクレーンの停止時における風荷重の組合せ

 以上の荷重の組合せにおいて,構造部分の強度に関し最も不利となる組合せによって計算するものとされている。

 

5.4疲労設計で考慮すべき荷重
5.4.1垂直動荷重【図6】

 定格荷重にフックブロックやクラブバケット,吊ビームなどの吊具の質量を加えた荷重がクレーンに作用することによって生じる力。

 

5.4.2垂直静荷重【図7】
 
  クレーンを構成する部分のうち,垂直動荷重に含まれない部分の質量によって生じる力。

5.4.3水平動荷重【図8】

 クレーンの走行,横行,若しくは旋回に伴う慣性力,又は遠心力によって生じる力。
  又,走行レールのスパンの精度やクレーンの斜行等により,進行方向と直角に車輪が働く「車輪側方力」などが含まれる。

 

 

5.5構造規格で決められている許容応力

 割増係数を含んだ荷重の組合せにより計算した応力は構造規格において,使用材料による許容応力以下にする。
  決められている許容応力は使用材料の応力変形後,復元する弾性限度内とされているが,繰り返し応力を受け続けるとその強度が次第に小さくなり,やがて変形,あるいは破損にいたる。
  構造規格,第12条に(疲れ強さに対する安全性)構造部分は,疲れ強さに対する安全性を確認する事と記され,計算による確認としてJISB8821(クレーン鋼構造部分の計算基準の6.4疲れ許容応力等の基準に基づく確認があるとされている。
  経年による疲労に対するリスク評価とし当初の設計根拠とした使用頻度の重要性が求められている。

 


6.経年クレーンの特別査定指針について
   
 

 経年クレーンに於けるリスクアセスメントとして「経年クレーンの特別査定指針」が”クレーン協会規格(
JCAS規格)”として平成19年3月に制定された。
  対象クレーンとしては,昭和51年規格の改正前(疲労に関する規定が無い)に設計されたクレーンで,これらは既に,疲労が蓄積されているだろう対象機であり,以下の順位分類で疲労査定を進める指針が出ている。
  JCAS規格「経年クレーンの特別査定実施基準」において,クレーン設置者が特別査定の優先順位を判断する分類は,リスク=(被害の起こり易さ×被害の大きさ)の程度で,分類し予算等による理由で順位を決めるのは好ましくないと記されている。
  現行の構造規格では,荷重率,荷の吊上げ回数,巻上等級等で疲労に考慮して分類がなされているが,疲労強度上の耐用期間(使用限度)に達したクレーンをどの様に処置するかは示されていない。
  また,ホイスト(巻上機)の様に内部機械品の摩耗等が外部からでは確認できずギヤー等の摩耗,破損による荷の落下事故がたびたび報告されている。耐応期間を過ぎた物は分解し,部品の摩耗など劣化した部品の異常の有無を確認,修理,調整を行うオーバーホールを実施し,その結果により廃棄,更新などの処置が必要である。
  経年疲労による事故を未然に防止するためには,安全規則に規定された定期自主検査,性能検査だけでなく老朽度調査等,構造体の亀裂,部品の損傷状態の確認を主体にした点検,検査を実施しすることも有効的である。
  使用者側は稼動状況,点検事象等の記録を残し経年疲労に対する管理をする事が大切である。

 


7.目の疲れとは
   
 

 クレーン製造者(設計)としては「構造規格」「安全規格」「JIS」等の法規の厳守,使用者側の使用状況を踏まえた仕様等にて,リスク評価表で各装置の部品単位に於いての各作業における危険性と発生の恐れの有る災害,危害のひどさ,危険に伴う時間的な長さ,発生可能な確立などを抽出し列挙,しリスク見積表【表6】にてリスクを数値化し,レベル評価を実施する。
  クレーン等の作業における具体的な災害には墜落・落下・挟まれ・巻込まれ・感電・激突等が上げられる。
  また,災害対象者を分類し発生の起こり得る事象を具体的に列挙する事が重要であり(【表7】はリスク評価表の一例を記載)抽出したリスクに対して,本質安全,安全防護及び追加の安全装置,インターロック等を考慮し【図2】の流れに沿ってリスク低減処置を実施し評価,製作標準に落し込める項目は製作標準とする。
  また,残されたリスクを残留リスクとして(完成図書による残留リスクの提示)使用側に連絡,共通認識とし危険を認識する事で危険を意識してもらうことが重要である。


7.1本質的な安全設計
  本質的安全設計とは,危険源が存在しない様に設計する,または危険な作業をしなくても良い構造(メンテナンスフリー)にする等,災害の発生要因を取り除く目的であり,客先指定仕様の中で制約を受ける内容である為,協議が必要となる。

 【図9】は駆動軸,減速機,モーター,ブレーキによる部品の組合せを車輪軸回転,減速機モーター(ブレーキ内臓)にする事で外部からの接触可能な回転体を無くした例である。

7.2安全防護及び追加の安全方策
  本質的な安全設計の実施は,使用者側による仕様により決定してしまうのが現状であり,防護柵及び安全カバー,安全装置の追加,インターロック等,が主体になっている。
  全てに於いて起こり得る危険事象に付いて対応が必要であり,残留リスクとして許容できる範囲か判断が必要となる為,製造者側からの提案も重要である。
  【図10】はリスク低減の対策例として照明灯,ストッパー等でクレーン歩廊上から出るものについて,落下する事を前提にした対策をする例だが,落下防止用ロープの切断等による落下の残留リスクは残る。
  この残留リスクを,保全者・使用者との共通認識として,点検等による安全性の確認が必要となる。
  また,点検時の安全を考慮した足場等の設置も大切になる。


 


8.製造者側の確認と使用者の厳守すること
   
 

8.1製造者側の確認
  製造者が行う安全方策の手順に於いて使用状況の特定が基本となる事から,以下項目は最も重要となる。

1. 使用頻度
吊荷の荷重率,巻上頻度の確認
巻上揚程(使用揚程),クレーン全体の使用頻度
2. 要求仕様の確認
使用環境の確認(作業手順,周囲温度,粉塵の有無,屋内外,等),巻上速度(衝撃係数の決定),操作方法
各動作の速度制御,法規以外の安全装置の有無等

8.2使用者側の厳守する事

1. 製造者から提示されたリスクの認識,共有化クレーン操作時,メンテナンス時の危険源での事象,評価及び作業指示(作業標準等)
2. 使用制限の厳守
吊上げ荷重率,荷重の吊上げ頻度
及びクレーン全体の使用頻度
3. クレーン使用に於ける法規の厳守
操作における禁止事項(横引き,斜め吊り,地球吊り等の禁止及び過荷重の吊り上げ)の厳守
4. 法令点検の実施
5. 作業者資格の厳守

 


9.まとめ
   
 

 クレーンはインバーター制御が主流になり,機械的・電機的に進歩し,規則・規格を含め成熟した物となってきている。
  現状クレーンは“危険な作業を必要とする機械”として,特定機械に指定されており,作業者の教育,訓練,危険を管理,規制,コスト重視の対応となっている危険検出型と機械安全の考え方との混在になっているのが現状であり,リスクアセスメント評価,対応,実施後も残留リスクは多々残る。
  製造されたクレーンにおいて残されたリスクを製造者,使用者,保全者が共通認識を持ち,各々の作業での危険源に於ける具体的なリスク評価「リスクアセスメント」を実施し作業指示(作業標準)に活かす事が大切である。
  また,クレーンを安全に維持,管理する上で,法規等で定められた「法令点検」「教育」「免許の取得」等の厳守が肝要となる。
  経年クレーンにおいても消耗,劣化による故障や事故を未然に防ぐ上で,日々の点検が大切であり,当初,製造された設計根拠等の確認に基づき,現状の使用状況も合わせて考慮し,点検(周期・内容)を実施する事が重要で,その稼働状況の記録を残し耐用期間を既に経過しているものは,構造体の亀裂,部品等の損傷の確認等を含めた点検を計画的に実施し,オーバーホール又は更新等の処置が必要である。
  また,クレーンによる災害を無くす上で,機械は故障し,作業者はミスを犯す,安全手段も,いつかは故障する。
  それらの故障も,ミスも考慮した安全確認型のクレーン製作を製造者側(メーカー)は目指し,使用者側(ユーザー)は,安全重視を基に要求仕様(使用状況等)の特定が望ましい。

 


10.おわりに
   
 

 本資料は平成19年〜平成21年にクレーン協会東海支部において実施した,技術者シンポジウム(勉強会)にて使用した資料をまとめたもので,記載されている一部資料は過去クレーン誌に記載されたものを引用しています。

(菱栄工機(株)技術部 伊藤 高)


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