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玉掛用つりチェーンの種類と取扱方法
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はじめに
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  玉掛け用具には,ワイヤロープ,つりチェーン,線維ロープ・ベルトなどの種類があり,それぞれの特徴と使用上の注意点がある.
ここでは,つりチェーン(以下,チェーンという.)を用いた玉掛け用具(以下,チェーンスリングという.)について,JIS B 8816:2004“巻上げ用チェーンスリング”に規定された内容より安全に使用するに当たっての取扱方法及び廃棄基準等について以下に述べる.

 


1.チェーンスリング
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  チェーンスリングは,ワイヤロープなどに比べ耐熱性,耐食性にすぐれており,また形くずれしにくく,耐久性が良いなどの利点がある.

(1) チェーンスリングの種類
 チェーンスリングの種類は,チェーンとマスターリンク,フック,ファンドリフック,及びグラブフック(以下,フック等という.)の組合せと,等級による.
 チェーンスリングは,端部にクレーンのフックに掛けるマスターリンクと別の端部に通常フック等を結合して使用し,チェーンの本数により,1本,2本,3本及び4本つりがある.
つり荷の形状と玉掛け方法によって,フック等の種類とつり本数から,最適な組合せを選択する.

(2) チェーンスリング結合方法の種類
 チェーンスリングのチェーンとフック等の結合方法には,組立式(A)と溶接式(W)とがある.
組立式(A)は,結合金具(カップリング)に結合ピンをハンマーで打ち込んで,組立を行い等級4[等級M],等級8[等級T],等級10[等級V],で使用される.
溶接式(W)は,チェーンとフック等を結合リンクを溶接して組み立てる方法で,等級4[等級M]のみで使用される.[ ]は旧等級表示方法を示す.



   

 


2. 種類
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 (1) チェーンの種類
チェーンの種類は,等級と線径によって区分される.

@ 等級:チェーンの強さ
チェーンの等級は,チェーンの強さ(最小破断応力N/mm )によって,等級4[等級M](400N/mm ),等級8[等級T](800N/mm ),等級10[等級V](1000N/mm )に分けられる.[ ]内は旧等級表示方法を示す.

A 線径(d):チェーンの太さ
チェーンの線径(d)は,5mm から32mm まで規定があり,それぞれの等級により,線径が太くなるほど,最大使用荷重が大きくなる.
最大使用荷重とは,1本のチェーンで垂直に吊ることが出来る,最大の荷重(基本安全荷重,基本使用荷重ともいう.)のことである.

(2) フック等の種類
チェーンに結合されるフック等の種類は,マスターリンク,フック,グラブフック,ファンドリフック,結合金具,結合リンク(等級4のみ使用)がある.個々の使用用途については,次の通りである.

@ マスターリンク(P)
マスターリンクは,クレーンのフックに掛けるために,チェーンの上端部に,結合される.クレーンのフックが入るように,楕円の形状したものが多く,結合金具(カップリング)が組み立て易いように,一部の形状を変えてあるものもある.

A フック(H)
荷のつりピース,アイボルトなどに掛けるために,チェーンの下端部に結合される.チェーンのねじれを戻すスイベル機能付のものや,外れ止めにロック装置を設けた,ロッキングフックも多く使用されるようになった.

B グラブフック(G)
チェーンの下端部に結合し,荷に回し掛けされたチェーンの長さを調整するために,フックを個々のチェーンリンクに掛けて止める事ができる構造のフック.

C ファンドリフック(F)
フックの“ふところ”が大きく,荷に玉掛け用に設置された,突起物や穴に掛けて使用される. 通常フックの外れ止めは付いていない.

D 結合金具
組立式において,チェーンとフック等を結合する金具で,一般的に“カップリング”“カプラー”と呼ばれている.

E 結合リンク
溶接式において,チェーンとフック等を結合する溶接用のリンク.
チェーンスリングの製造業者または,資格を持った者が溶接を行わなければならない.

 


3. 使用荷重
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 チェーンスリングの使用荷重は,つり方,つり本数,つり角度を確認し1本つりの使用荷重にモード係数を乗じた範囲内で使用すること.
次表に等級10のチェーンスリングの使用荷重を示す.

等級10のチェーンスリングの使用荷重
つり方 1本つり
2本つり
3本つり及び4本つり
つり角度α α=0° α≦90°
90°<α≦120° α≦90°
90°<α≦120°
垂直線との角度β β=0° β≦45° 45°<β≦60° β≦45° 45°<β≦60°
モード係数M 1
1.4 1 2.1 1.5
線径
(mm)
5
1.0 以下 1.4 以下 1.0 以下 2.1 以下 1.5 以下
5.6 1.25以下 1.75以下 1.25以下 2.62以下 1.87以下
6.3 1.6 以下 2.24以下 1.6 以下 3.36以下 2.4 以下
7.1 2.0 以下 2.8 以下 2.0 以下 4.2 以下 3.0 以下
8 2.5 以下 3.5 以下 2.5 以下 5.25以下 3.75以下
9 3.2 以下 4.48以下 3.2 以下 6.72以下 4.8 以下
10 4.0 以下 5.6 以下 4.0 以下 8.4 以下 6.0 以下
11.2 5.0 以下 7.0 以下 5.0 以下 10.5 以下 7.5 以下
12.5 6.3 以下 8.82以下 6.3 以下 13.23以下 9.45以下
14 8.0 以下 11.2 以下 8.0 以下 16.8 以下 12.0 以下
16 10.0 以下 14.0 以下 10.0 以下 21.0 以下 15.0 以下
18 12.5 以下 17.5 以下 12.5 以下 26.25以下 18.75以下
20 16.0 以下 22.4 以下 16.0 以下 33.6 以下 24.0 以下
22.4 20.0 以下 28.0 以下 20.0 以下 42.0 以下 30.0 以下
25 25.0 以下 35.0 以下 25.0 以下 52.5 以下 37.5 以下
28 31.5 以下 44.1 以下 31.5 以下 66.15以下 47.25以下
32
40.0 以下
56.0 以下 40.0 以下 84.0 以下 60.0 以下

 

 

4. 使用荷重
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 チェーンスリングの使用荷重は,つり方,つり本数,つり角度を確認し1本つりの使用荷重にモード係数を乗じた範囲内で使用すること.
次表に等級10のチェーンスリングの使用荷重を示す.

 


5. 安全係数
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 (1)チェーン
チェーンのJIS 規格(JISB8816巻上用チェーンスリング)では,破断荷重/最大使用荷重=安全係数の値が4以上となっているが,玉掛け作業に使用する場合はクレーン等安全規則第213条の2(平成10年6月24日改正施工)では,安全係数は4以上又は5以上と規定されている.
安全係数4以上の場合は,同条1号の試験に合格したものが該当し,安全係数5以上は,同条の1号に該当しないものが適用される.

 (2) フック等
フック等のJIS 規格(JISB8816及びJISB2803フック)では,安全係数の値4以上となっているが,玉掛け作業に使用する場合はクレーン等安全規則第214条では,安全係数5以上と規定されている.
従って,チェーンスリングの安全係数は上図のとおりとなり,チェーンスリングに表示されているメタルタグ,ラベルで確認して使用すること.

 


6. 取扱方法
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 チェーンスリングの取扱については,次の事項に注意しなければならない.

a) チェーンスリングのメタルタグ又はラベルに表示してある使用荷重以内で使用すること.
b) つり角度を確かめ角度に応じた使用荷重のチェーンスリングを使用しなければならない.
c) チェーンがねじれたり,もつれたりしたまま使用すると,チェーンの強さが低下するので,このような使い方はしてはならない.
d) 荷の角にチェーンが当たるときは,麻袋や古タイヤ等の当てもの(保護材)を用いて,荷を保護すると同時にチェーンも保護すること.
e) 荷は必ずフック“ふところ”の中央でつるすこと(フック先端に荷を掛けるとフックに過大な力が働き,フックの変形につながる).
f) チェーンの摩耗及び伸びによる使用限界を守り,変形及びき裂が生じているものは,使用しない.(廃棄基準参照)
g) チェーンスリングを高温又は低温の雰囲気で使用する場合は,上表によって,使用荷重を減少させて使用すること.また,一度高温状態で使用した場合は,焼き戻しが行われたものとして,その温度に応じて使用荷重を減少させて使用すること.
h) 荷を地切りするとき,また着地するときチェーンスリングに衝撃力が掛からないように静かに行うこと.
i)チェーンスリングが常時,振動を受ける用途に使用する場合は,使用荷重を軽減させて使用すること.
j)チェーンスリングで,荷を長時間つったままで,放置しないこと.
k) 複本数つりのチェーンスリングで,個々のチェーン,フック等に最大使用荷重を超える荷重が負荷されないように,荷はバランスよく玉掛けすること.
l) 損傷を受けたチェーン,フック等を溶接,肉盛又は熱処理を施すなどして再使用してはならない.
m) チェーンスリングを使用しない時は,環境の良い適切な場所に,つり下げ装置を設けた格納場所を定め,つり下げて錆びないように保管すること.


各使用温度における使用荷重
単位%
使用温度 -40℃を超え100℃以下 100℃を超え200℃以下 200℃を超え300℃以下 300℃を超え350℃以下 350℃を超え400℃以下 400℃を超え475℃以下 475℃を超え
階級 4 100 100 100 85 75 50 使用不可
8 100 100 90 75 75 使用不可
10 100 90 75 65 60 使用不可

 


7. 点検基準・廃棄基準
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 チェーンスリングの点検基準は次による.点検基準で“使用しない”の基準に達しているものは,廃棄すること

点検項目 点検方法 点検基準
1) チェーンスリング全体
@使用荷重 目視 使用荷重をタグ又はラベルで確認する.
A組付状態 目視 部品の脱落がないか確認する.
2) チェーン
@チェーンリンクの伸び
(5リンク分)
目視・ノギス 元の寸法の5%以上伸びているものは,使用しない.
Aチェーンリンクの摩耗 目視・ノギス 線径の摩耗が10%以上のものは,使用しない.
Bチェーンリンクの曲がり 目視・ノギス 線径の10%以上のものは,使用しない.
Cきず・有害な欠陥 目視,磁粉探傷
又は浸透探傷
きず,き裂その他有害な欠陥があるものは,使用しない.
D腐食 目視 著しいさびがあるものは使用しない.
3) フック等
@変形 目視・ノギス 外形寸法の変形が5% 以上のものは,使用しない.
A摩耗 目視・ノギス 元の値の10%以上摩耗しているものは,使用しない.
Bきず・有害 目視,磁粉探傷
又は浸透探傷な欠陥
きず,き裂その他有害な欠陥があるものは,使用しない.
C腐食 目視 著しいさびがあるものは,使用しない.
Dピンの緩み目視 目視 緩みがないこと.
E外れ止め 目視 著しい摩耗,変形がなく正しく作動すること.
(最初から設置されていないものは,対象外とする.)

 


8. おわりに
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 チェーンスリングは,玉掛け用具の中でも耐熱性,耐食性,耐久性に優れ,点検も容易に出来ることから,玉掛け作業の安全性,信頼性向上に大きく貢献してきた.また近年では,フック等において荷重が掛かっている場合は,外れ止めが開かないロッキングフックやチェーンの捻れを戻すスイベル付フックなども使用されるようになり,多様化する玉掛け作業の安全性,利便性向上の玉掛け用具として,期待されている.

(象印チェンブロック(株)津田和則)


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