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油圧ショベル兼用屈曲ジブ式移動式クレーンの安全運転のポイント
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1. はじめに
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susume03_04_01.jpg油圧ショベルの多機能化が進み,単に掘削作業だけでなく,つり荷作業にも使用できる要求が過去より高まっていき,安全性を向上させるための法令等が順次整備されてきました.
平成4年に労働安全衛生規則第164条が改正され,車両系建設機械の「主たる用途以外の使用の制限」が緩和され,「作業の性質上やむをえないとき又は安全な作業の遂行上必要なとき」のような特定条件下で,規定された安全措置を講じることにより,つり荷作業が認められることになりました.
平成10年には,(社)日本クレーン協会がJCA規格「油圧ショベル兼用屈曲ジブ式移動式クレーンの過負荷制限装置」を制定し,その機能,構造,性能等が規定されました.
さらに,平成12年2月に労働省(現厚生労働省)労働基準局安全衛生部から事務連絡「クレーン機能を備えた車両系建設機械の取扱いについて」が示され,要件を満たすものは正式に移動式クレーンとして認められました.
現在,油圧ショベル兼用屈曲ジブ式移動式クレーン(以下,クレーン機能付き油圧ショベルという.)が多くの作業現場で稼動していますが,ショベルとクレーン機能の両方を備えた機械であり,特別な注意を払う必要があります.本安全のすすめでは,この点に焦点を当てながら,安全運転のポイントを述べます.
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2. 安全運転のために
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spacer.gif 運転する機械が移動式クレーン仕様機であることを確認します.
運転する機械の取扱い説明書をよく読み理解して,正しく安全に取り扱ってください.
当該機械を用いてクレーン作業をする場合,最大つり上げ荷重に応じた運転資格が必要です.

また,玉掛け作業においても玉掛けの資格が必要です.(表1)

表1 クレーン機能を備えた車両系建設機械のクレーン作業に必要な資格

作業内容 spacer.gif 当該機械のつり上げ荷重 必要な資格spacer.gif spacer.gif spacer.gif
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運転の業務 spacer.gif 5t以上 移動式クレーン運転士免許

1t以上5t未満 spacer.gif小型移動式クレーン運転技能講習 spacer.gif

0.5t以上1t未満 spacer.gif移動式クレーン運転の業務に係る
特別教育
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玉掛の業務
1t以上 玉掛けの技能講習 spacer.gif spacer.gif

0.5t以上1t未満 玉掛けの業務に係る特別の教育 spacer.gif spacer.gif
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3. 作業開始前の注意事項
(1) 作業開始前の点検
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susume03_04_03.jpgクレーン機能付き油圧ショベルには,クレーン作業を安全にするため,JCA規格に適合した過負荷制限装置をはじめ各種の安全装置が備えられています.
運転前には必ず作業開始前点検を実施して,損傷・油洩れ等がある場合には,修理を行ってから運転します.
玉掛け用ワイヤロープやつりチェーンも要件に適合しており,損傷・摩耗がないものを使用します.
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(2) 作業範囲の確認
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spacer.gif 作業範囲と作業範囲内の障害物の有無を確認します.
立入禁止柵などを設け,人や障害物を立ち入らせないようにします.
車道や歩道などでは,必要に応じて誘導者をおきます.
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(3) 合図者
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spacer.gif クレーン作業で玉掛け者(合図者)と共同作業をするときは,その指示に従います.
合図のないうちに操作したり,合図が不明瞭なままの操作は絶対にしてはいけません.
2台以上の機械で共同作業をするときは,合図および合図者を一人に決めます.
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(4) つり具は適格なものを
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不適格な玉掛け用ワイヤロープ,つりチェーン,シャックルなどを使用してはいけません.
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4. 作業開始時の注意事項
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(1) エンジンの始動は合図してから
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spacer.gif エンジンの始動前に,周囲に人がいないか確認し,ホーンで警報します.
始動後,フロントアタッチメントの可動.範囲などに注意して安全に操作します.
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(2) フックをクレーン作業位置へ
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spacer.gif バケットシリンダ最伸長状態でバケットを接地して安定させてから,エンジンを止めます. susume03_04_05.jpg
・   オフセット機構のあるフロントアタッチメントは,オフセットのない位置にします.
その後,フックを決められた手順に沿って格納位置から取り出します.
ショベル作業モードのままフックで荷をつると,機械の転倒や損傷,フックの破損など重大事故の恐れがあります.

ショベル作業モードでのクレーン作業は絶対にしてはいけません.
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(3) クレーン作業モードヘの切替は確実に
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spacer.gif クレーン作業時は,バケットシリンダを最伸長にし,スイッチを必ずクレーン作業モードに切り換えます.
バケットシリンダはこの位置で動作がロックされます.
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過負荷制限装置が正常に働くかモニタの表示で確認します.
クレーン作業モードに切り換えないと各安全装置は作動しないので非常に危険です.
機械の損傷や重大な人身事故につながる恐れがあります.
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5. 運転の一般的注意事項
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(1) 機械の発進は向きを確認してから
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spacer.gif 機械の発進をする前に,走行モータの位置を見て進行方向を確認します.
周囲に警告のためホーンを鳴らし,ゆっくり走行レバーを操作して低速走行をします.
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(2) 運転位置からの離脱の禁止
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spacer.gif 荷をつったままで運転席を離れたり,よそ見,相談,飲食など注意を他にそらすような行為はしてはいけません.(図6) susume03_04_07.jpg
一時運転を中止のとき,また現場の状況により運転終了姿勢がとれないとき,オペレ一夕は運転席に残り,いつでも運転操作ができるように待機します.
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(3) 運転席を離れるとき
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spacer.gif 運転席を離れるときは,必ずバケットを地面に接地させ操作レバーを中立にします.(図7) susume03_04_08.jpg
安全レバーを上にあげてロック位置にし,エンジンを停止します.
他の者が無断で運転しないように,キーは抜いて保管します.
作業終了時は,すべての窓,ドア,カバーを閉じ,鍵を掛けます.
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6. 運転操作の注意事項
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(1) 定格総荷重の範囲を遵守
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spacer.gif 定格総荷重を超えてのクレーン作業はしてはいけません.遵守するために,常に荷重表示装置,水準器,警報ブザーなどを有効に利用します.
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(2) 低速回転で,円滑なレバー操作を
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・  エンジン回転数を十分さげて作業します. susume03_04_09.jpg
spacer.gif クレーン作業時のレバー操作はゆっくりと行い,衝撃や反動のないようにします.(図8)
油圧シリンダはストロークエンドで衝撃を与えないよう操作します.
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(3) 高速旋回の禁止
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spacer.gif 荷をつって高速旋回すると遠心力のため,つり荷が外方向に飛び出して危険です.   
また,つり荷が大きく振れるため,周囲の作業者や器物に危害を与える恐れがあります.
油圧ショベルの旋回速度は速いので,エンジン回転数を下げるとともに,作業切換装置のある機械では低速に切り換えて,旋回操作は低速で行い,つり荷の振れをできるだけ小さくします.
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(4) フックとバケットが干渉しないように
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無理な作業範囲をとると,フックがバケットと干渉し,つり具の損傷を招きます. 事前に作業姿勢を確認します.(図9) susume03_04_10.jpg
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(5) 横引き,斜引きなどの禁止
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・  機械の位置,方向,作業範囲を調整して,吊り荷をフックの真下に置いてつり上げられるようにします.
spacer.gif 横引き,斜引きなどは機械の破損の原因となりまた作業の上でも危険です.
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(6) つり荷走行の禁止
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spacer.gif 移動式クレーンを使用してのつり荷走行は原則として禁止されています.   susume03_04_11.jpg
やむを得ず走行する場合(図10)  
荷を地面に近づけ振れを小さくする.
軟弱凹凸路面は避け,敷鉄板等を用いて養生し良好な路面とする.
できるだけ低速で走行する.
荷の重量を,できるだけ小さくする.
電線の下を通過するときは,十分な間隔を取り誘導者の指示に従う.
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(7) つり荷の下に絶対に作業者を入れない
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spacer.gif つり荷が落下すると重大な災害を引き起こします.つり荷の下には絶対に作業者を立ち入らせてはいけません.(図11)   susume03_04_12.jpg
  つり荷はトラックの運転室の上などを絶対に通過させないように運転します.
玉掛け作業は有資格者が行わなければいけません.
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(8) 作業者のつり上げ禁止
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spacer.gif 人間が高所から落下すると重大な災害につながります.
作業者をつり上げたり,つり上げた荷の上で絶対に作業をさせてはいけません.

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7. クレーン作業時の注意事項
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(1) 機械の設置は水平で平坦な場所に
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spacer.gif 機械は水平で平たんな場所に設置します.
spacer.gif やむを得ず凹凸のある所でクレーン作業をするときは,平坦に養生したり敷き鉄板などを使用し,地面の間にすきまがないようにします. ・ゆっくりと旋回して機体が安定していることを確認することも肝要です.
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(2) 傾斜地や軟弱地盤上での作業はしない
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・  機械を水平に保持できない傾斜地や軟弱地盤上では,絶対にクレーン作業を行ってはいけません.
spacer.gif 敷き鉄板などを使用して,接地圧を低下させ,作業が安全にできるようにします.
spacer.gif 雨の日は,地盤もゆるみ,路肩は崩れやすいなど悪条件が揃っています.クレーン作業や移動には十分注意しましょう.
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(3) 路盤が崩れないように最大接地圧に注意
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・  機械の旋回にともないクローラ端部の最大接地圧は増加します.フロントアタッチメントがクローラ端部方向を向くとき接地圧は最大となります.
最大接地圧は,平均接地圧の2〜3倍程度が目安となります.
spacer.gif クローラを掘削溝に平行して,溝に近づけ過ぎると,最大接地圧が高いため,路肩が崩れる恐れがあります.
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(4) 凍結・雪上面での走行注意
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spacer.gif 凍結路面や雪上路面は,わずかの傾斜でも思いのほか横滑りをします.エンジン回転を低速にして急発進,急停車,急旋回は避けましょう.
spacer.gif 凍結した地盤は,気温の上昇と共に軟弱になるので注意が必要です.

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(5) 強風時の注意
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spacer.gif 強風時の作業は,転倒やつり荷のあおりなどにより転倒で周囲に危害を及ぼす恐れがあります.
spacer.gif 敷き鉄板つりなど受風面積が大きいときは,つり荷が回転したり,あおられるので危険です.回転止めロープを取るなど風速に応じた安全対策が必要です.
風速10m/秒以上ではクレーン作業を行ってはいけません.
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8. 点検・整備

クレーン機能付き油圧ショベルは,労働安全衛生規則による車両系建設機械の特定自主検査に加えて,「クレーン等安全規則」に示してあるように1ヶ月以内毎,1年以内毎の定期自主検査が義務づけられています.
定期保守項目および間隔の例を表2に示します.機械により点検内容が異なる場合がありますので,詳しくは機械に付属した取扱説明書に従って各部について点検・整備を実施しなければいけません.

表2 定期保守項目及び間隔

作業別 項目 間隔
始業点検 1ヶ月ごと 12ヶ月ごと
点検・整備 ブーム・アームアングルセンサの作動確認 spacer.gif spacer.gif
落下防止装置の油漏れ,異音,損傷 spacer.gif spacer.gif
ブームシリンダの圧力センサの油漏れ,損傷 spacer.gif spacer.gif
油圧配管,ホース類の油漏れ,損傷 spacer.gif
安全標識,その他標識の貼り付け状態,損傷
回転灯の作動状熊
アングルセンサ,圧力センサのハーネスの損傷,接続状態
バケットリンク,フック,各種ピンの取付け状態,損傷,給脂状態
フックの摩耗・損傷点検
フックの亀裂,変形,損傷
フックのロープ外れ止めの作動,変形,損傷
フックヘの給脂
バケットリンクまわりの給脂
荷重表示器の損傷,取付け状
警告ブザーの作動確認
フック回転状態の確認
レバー取付状態の確認
試験 荷重試験
注)
1. ○印は,点検・整備の実施を必要とする項目
2. □印は,法定点検・整備の必要項目
3. △印は,給脂間隔
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9. おわりに
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以上,油圧ショベル兼用屈曲ジブ式移動式クレーンの安全運転のポイントについて述べましたが,機械は日常点検や定期点検が確実になされ良好な状態で運転しなければなりません.また,オペレータの心得として

・  運転にあたり試運転して機械の調子を見る.
spacer.gif 急がず操作前に一呼吸し低速運転を徹底する.
つり荷作業は,地切り一旦停止,明りょうな合図を徹底し安全確認を行う.

などが大切です.
本稿がクレーン作業の災害防止の一助となれば幸です.

(コベルコ建機(株)原正敏)

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